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「まこ」
トイレから出て、富田の待ってる席に戻ろうとしたあたしは、その声で足を止めた。
少し跳ね上がった心臓、あたしは左の胸に手を当てて、ゆっくり振り返る。
「やっぱ、まこだ。こんなとこで会うと思わなかったよ。あの時は…ごめんな?」
そう言って、あたしの右の頬っぺたを優しく撫でながら、少しおどけて笑った。
今のあたし、どんな顔してるかな。
「まこ、どうした?」
「ちょっ…」
あたしを覗き込んだその顔が近すぎて、後ずさった。
「まこ…」
あの頃、大好きだった声。
「まこ、もう28か…。結婚は?」
「してないのか…」
あたしの左手を取って、薬指を優しく撫でた。
「触んないで…」
「あぁ、ごめん…もう、俺のまこじゃないもんな」
「…ごめん、人、待たせてるから」
一度だけ視線を合わせてから、あたしは逃げるよーに富田の待ってる席に向かった。
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