忘れかけた傷

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「とにかく、今日は俺ん家、帰るぞ」 唇が離れた後、強引にあたしの手を引いて富田はスタスタ歩き出した。 「あっ、ちょっと、ねー、着替えないし、今日は帰るよ」 「着替えぐらい貸してやるって」 「そーゆー問題じゃないんだけど…」 「じゃー、どーゆー問題だよ」 「ホントに大丈夫だから、帰るって」 「ダーメ、お前のせーで酔い覚めたから」 「お風呂、ゆっくり入りたいし…」 「は?俺ん家も風呂ぐらいあるし」 「や、だって、化粧品とかもないしさ」 「お前、たいして化粧なんてしてねーじゃん」 「そーたけど…」 「あー、ホントにうるせーな、帰ったらその口塞ぐからな」 「………!!…」 立ち止まったあたしに、富田は笑って。 「バーカ、冗談だよ」 そう言って、また歩き出した。 いつの間にか涙は止まってて、あたしは笑ってた。 「あ、煙草ねーや、ちょっと待って」 繋いでる手を離して、自販機に向かって行った後ろ姿に。 「あたしのも買ってー」 笑いながら、富田の後を追いかけた。 .
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