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あたしは右手を腰に当てて、左手を頭の上に乗せて、大きな溜め息を漏らした。
「動くなよ」
「はいはーい」
ザクザクと音を立ててハサミが動くのを、あたしは上から見下ろす。
「こんなもんか…」
見上げた富田と目が合って、富田は満足そうな顔で笑った。
「ヒールは9センチか、11センチってとこか、持ってんだろ?」
「あー、まぁ…持ってる、けど…」
「なら履いてみろ」
さっきから、この命令口調のご主人様。
なんだかんだ言いながら、言う事を素直に聞いてるあたり、富田に惚れた弱味だな、なんて考えながら、あたしは玄関に向かった。
「ねー、色は?」
「そんなに持ってんのかよ!?」
「まーね、靴、好きだし」
下駄箱から、持ってるありったけのパンプスを出してやった。
これで、どーだ、ぐらいの気持ちで。
「おまっ…バカじゃねーの」
富田はちょっと呆れた顔で、あたしを見下ろした。
狭い玄関に並びきらなくて、廊下まで並べたパンプス。
1番のお気に入りは、デニムによく合わせる赤のエナメル。
富田は、じっくりと並んだパンプスを眺めた。
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