躊躇い

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「ほら、これ着てみろ」 走って来たのか、富田は額に少し汗を滲ませて、ジャケットを差し出した。 受け取った瞬間、フワッと香った富田の香水の匂い。 あ、この匂い、あたしの好きな匂いだ…。 「これ、富田の?」 「あー、そう」 羽織ってみたジャケットは、思いの外、しっくりきた。 ちょっとクセのある、ブラックのジャケット。 襟の所だけサテン素材で、2つのボタンはわざと、くすませたよーなシルバーのそれ。 あたしは玄関にある大きな鏡の前に向かった。 「ねー、富田ー!!すごい合うねー!!」 慌てて、真っ赤なエナメルパンプスに足を入れた。 何これ…嘘みたい…。 サテンのブラックドレスは、裾をざっくり切られて、膝小僧が見える丈で。 「ジャケットと、最高のバランスじゃん!!」 「だろ?これ、明日着て来いよ」 「あ、そーいえば、明日、どこに行く訳?」 さっきから、気になってた事。 あたしは一体、何の為に、このカッコをさせられてるのか。 「あ?言ってなかったっけ?ベストデザイン賞のパーティーだよ」 「はぁっーーー!?」 .
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