躊躇い

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ステージの上で、トロフィーをもらってる富田の姿を眺めた。 あたしはなんか、不意に寂しくなって。 やっぱ富田とは、住む世界が違うよーな気がした。 同じデザイナーだけど、あたしなんか全然ダメで、こんな賞なんて一生かかっても取れっこない。 あたしは、中身のなくなったシャンパングラスをテーブルに置いて、まだ暗い会場を抜け出した。 太陽が隠れて、少しずつ暗くなり始めた空を見上げた。 もー、帰ろっかな……。 そんな事を考えながら、クラッチバッグの中から煙草を取った。 『このよーな賞を頂けて、本当に嬉しく思います。この場を借りて、日頃から世話になってる、俺のデザインチームのみんな、デニム工場の社長、出版社の方、それから…… ゛darling ″のデザイナーの松岡 まこ。 俺に関わってくれた全ての人達に、感謝します。ありがとうございました』 会場の中から聞こえた富田の声と、大きな拍手を聞いてから、あたしは歩き出した。 .
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