終わりのキス

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こんなに緊張するの、何年ぶりだろ。 口から飛び出ちゃいそーな心臓を、鷲掴みにして、インターホンを押した。 部屋の中から、足音が聞こえて、静かに開いたドア。 髪の毛を濡らした富田が見えた。 「ごめん…シャワー浴びてた?」 あたしは、なぜか平然を装って、富田を見上げた。 「あー、さっきな。とりあえず、さみーから入れ」 上半身裸で、グレーのスウェットを履いた後ろ姿を見ながら、部屋に入った。 「どーした?」 キッチンの中から声が聞こえて、あたしは呼吸を整えた。 「あのさ…」 「何、突っ立てんだよ」 「あー、そっか」 あたしの家よりも広い部屋、テーブルの前のソファの隅に座る。 ギシッ、ソファが穏やかに沈んで、缶ビールを手にした富田が、隣に座った。 「で?」 「あ、そー、これ、ありがと」 ジャケットを差し出したあたしに、富田の顔はみるみる歪んでいく。 「あ?お前、クリーニング出してから返すって言ってたじゃん」 「あー、そーだった、ごめんごめん…ハハハッ」 .
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