唇の温度

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まこ…? 富田の少し掠れた低い声が、一度もそう呼んだ事のない筈の、名前を呼んだ。 「…何?」 素っ気なく返した あたしの返事に、目の前の顔は歪んでいく。 「…本当に…ムードぶち壊し…ハハッ」 ぶち壊しって…こんな時どー返せってゆー訳? 甘い声でも出して、猫みたいにスリスリしろって? おそらく、怪訝そうな顔をしてるあたしに、富田はまた笑って。 「それが…お前なんだけどな」 頭を一撫でした後、立ち上がってトイレに向かって行く後ろ姿を見送った。 唇を 手の甲で拭うように一度擦った後、テーブルに置かれた ぬるくなった缶ビールを一気に流し込んだ。 ゛まこ ″ 頭の中で、音楽のサビみたいに何度もリプレイされる声に、頭を振って 。 もう一本…ビール飲も。 .
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