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「――というわけなんだよ」
適当に見繕ってオーダーを済ませると、乾杯もそこそこに運ばれてきたビールを僕もヨウスケもひと息でグラス半分ほども空ける。
秋も半ばに差し掛かろうかというのに、まだまだ暑い日が続いている。
人心地つくと、料理が来るのも待たずに僕は経緯を話した。
ヨウスケは突き出しには箸をつけずに、タバコを吹かしながら話を聞いてくれていた。
「ふむ」
「どう思う」
「つまり、お前はそのキョウコさんに惚れている、と」
「ああ」
「惚れた相手の依頼だから断れなかった、と」
「ああ」
「だったら、逆に考えてみればいい。つまりこれはチャンスなんだ。報告にかこつければそのキョウコさんと話をする機会も増えるだろ」
「機会ばかりが増えたって……」
「まあ、聴け。つまりはだな、その報告をやれ目下調査中だ、引き続き観察が必要だなどと言って引き延ばしてだな、その間に自分を良く売り込むんだ」
「さすがにそんなことは……」
「もちろん効果がある保障はないし、人道的に褒められた行いでもないだろう。だがな、俺は思うんだ。人生に於いてなにが一番大事なのか、ってな」
「何だと思うんだ?」
さっそく酔いがまわってきているのか、と思いながらも水を向ける。
「それはやはり、愛する相手と家庭を築いてだな、その相手との間に子を儲けてだな。そしてその子をまた力の限り愛してだな……」
どうやら向けた水はアルコール飲料以上に彼の酔いを誘ったらしい。
けっきょく僕は、店を二度変え時計の針が日付の変更を告げるまで、相談に乗ってもらったのだか、講釈を拝聴したのだか分らない時間を過ごした。
ちなみに彼は独身である。
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