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☆
タケオさんの報告は簡素だったが、用は満たしていた。
そしてそれは私を十分に満足させてくれる結果だった
ヤマノさんには交際相手もいなければ、好きな人間もいない。
だが、人というのは欲をかく生き物である。
スパイをお願いした時に、タケオさんが胸を叩いて言ったセリフが、報告を聞き終えた私の中で繰り返し再生されていた。
こちらの心を見透かすように、思わせぶりな笑みを浮かべたあと、タケオさんは付け加えた。
「もちろん、これだけでその奇跡の杯を頂こうなんて思っちゃあいませんよ」
報酬の受け渡しの要からも調査報告は私の屋敷で受けていた。
年代を経た書画骨董が規則性もなく置かれた応接室は、足繁く通ったタケオさんにしても勝手知ったる空間である。
「と、言いますと」
こちらの期待など、先方には分り切っているだろうけれども、それでも恍けてみせないわけにはいかない。
「ヤマノさんとの食事の席を用意しました」
「それは」
何と続ければ良いのか。
素直に喜びの声を上げるにはまだ早い。
だが、労を取ってくれたタケオさんに感謝の意を示すのならば良いだろう。
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