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「このワイングラスが、えっと、奇跡の杯だっけか」
「ああ、手放すことで奇跡をひとつ起こしてくれるんだとさ」
僕の話しで興味を持ったヨウスケにせがまれて、奇跡の杯を見せるために彼を自宅へと招いていた。
彼は断ってから手に取り慎重にためつすがめつしている。
「不思議な色だな」
「ああ、ウランガラスでできている」
「ウランって、あの放射能のか。危険はないのか」
「何でも人体には全く影響がでないぐらいの微量のウランを混ぜてあるそうだ。
太陽の光とかブラックライト、つまりは紫外線に照らされると蛍光色に光るんだ。
国内では大正から昭和の初めにかけて多く造られたらしい」
言いながら僕はペンライトタイプのブラックライトを渡してやる。
ヨウスケは受け取ったペンライトでグラスを照らすと「おお」と声をあげた。
さすがにアンティークの品だけあって、透明度こそ落ちてはいるが、その分やさしく穏やかな明かりを出す。
僕自身は太陽の光よりも露骨に現れるブラックライトでの蛍光色はあまり好きではなかったが、それでもペンライトがなぞることでカットに添って現れる光は幻想的なものだった。
ヨウスケは飽きもせずに光を楽しんでいたがやがて手をとめると、こう言った。
「欲しい。譲ってくれないか」
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