神の観察

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そもそも「ロックシステムが破損した」という状況から奇異だったのだ。 仮に実際に破損していたとしても、そうだからと言ってロックがはずれるなんて、おかしな話だ。 冷静に考えれば、ロックシステムの破損は「ロックを正常に解除できなくなった」ことを意味するだけで、「ロックが機能しなくなった」ことを意味するのではない。 つまり、ロックシステムを壊したところで、フォルダから脱出することはできないのだ。 だが混乱し焦っていた俺は、そんなことよりも「LIFEが外に漏れる危機」の方に目が行き、それに捕らわれ続けた。 無理もない。対する脅威が人類の存亡にまで関わるレベルとなれば、盲目にならない方がおかしい。 俺は、完全に奴らの術中にはまっていたのだ。 つまり、先のエラーメッセージは、奴らのお手製だった。 自分たちがインターネットに流れ出ることがどれだけ危険なことか、奴らは熟知していた。 そして、その事実から来る俺のパニックを巧みに利用することを考え付いたのだろう。 それが、エラーメッセージである。 エラーメッセージの偽装程度なら、奴らにとっては容易な作業だ。 ロックシステムが破損したとあれば、当然『俺』はフォルダ内のLIFEの流出を恐れ、ロックを修復、強化してくる。 その際、さらなるエラーを防ぐために、まずは壊れたファイルを削除するだろう、と、奴らはそう考えたのである。 そして、それはまさに正しかった。 俺という人間には、「何か問題が起きた時や混乱した時には、まず物事を簡略化する」、という癖がある。 そうすることが、頭を整理し、問題を解決する近道になると信じているからである。 そしてそれはかなりの範囲で正しい。 複雑な状況をそのままにして解決に挑んだのでは、さらなる混乱が生じることは目に見えている。 まずは状況を単純化し、それから解決に取り掛かる。 そういう習性を、俺は身に着けていたのだ。 その美徳が、その性癖が、今回は裏目に出た。
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