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朝の教室のド真ん中。
突然の侵入者に数学教諭も目を見張っていた。
しかし、海にナイフを向けている事に気づくと無意識に口に弧を引くのが分かる。
「海様…?」
先を促す彼。
何を促しているのか海には分からなかった。
「えっ…と……取り敢えず僕は怯えて命乞いすればいいのかな。」
表情はピクリともしない。
寝起きなのか、半開きの瞳と所々跳ねる寝癖がそれを物語っていた。
「僕は一般生徒です。裕福な家庭に育ったものの僕はなんの才能もありませんでした。」
「ピアノがあるよ。忘れちゃあいけないね。」
無意識に口を突いて出た。
独特のメロディで構成された楽譜たちに作曲者の上手いピアノ使い。
彼のピアノは世界一好きだった。
コンクールでは優勝。
あちこち引っ張りだこ状態のまだ高校生ピアニスト。
誰も彼もが彼の実力に嫉妬し、魅了されたであろう、プロピアニスト。
しかし、彼は数年前事故で指が上手く動かなくなった。
超天才高校生ピアニストはメディアの批判とピアニスト引退によって業界から姿を消した。
「ピアノ…?この指で…?」
敬語が抜け落ちる。
フルフルと震えだした彼の手はトラウマにより支配されている事は海にだってわかっていた。
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