⑨ 元親衛隊隊長と元人気者

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『青桐 太一。君は…何がそんなにかなしいのかな。』 海はナイフの刃先に触れるとスッと自然な形で指を切った。 白い指から赤い液体が小さく溜まる。 僕は彼のトラウマを知っている。 けれど、深い所までは知らない。 僕はけして、全知全能じゃあないんだ。 『僕は君がトラウマになった理由が残念ながら理解出来ない。理解しようとも思わない。』 驚きながらも笑って見せる強情な彼に僕はもっと深く指を切った。 深く、深く刃先に押し込んでいく。 「それがどうかしましたか?」 刃先が微かに震えているのを感じながら密かには微笑んだ。 彼に僕は殺せない。
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