866人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
『青桐 太一。君は…何がそんなにかなしいのかな。』
海はナイフの刃先に触れるとスッと自然な形で指を切った。
白い指から赤い液体が小さく溜まる。
僕は彼のトラウマを知っている。
けれど、深い所までは知らない。
僕はけして、全知全能じゃあないんだ。
『僕は君がトラウマになった理由が残念ながら理解出来ない。理解しようとも思わない。』
驚きながらも笑って見せる強情な彼に僕はもっと深く指を切った。
深く、深く刃先に押し込んでいく。
「それがどうかしましたか?」
刃先が微かに震えているのを感じながら密かには微笑んだ。
彼に僕は殺せない。
最初のコメントを投稿しよう!