花と鳥と

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花と鳥と

 1  朝食を終え、身支度を済ませた私は、その仕上げとして真新しい象牙色のセーラー服に袖を通し、姿見の前に立った。  左右の逆転した自分を見ながら、乱れた髪を手櫛で整える。この、色素の薄い細い癖っ毛も、紫色をした眼も、色々あって好きでは無かった。黒く染めてしまいたいとも思った。それに、お母さんを恨んだ事も……。  けれど、お母さんの姿を思い出させてくれる物の一つとなった今では、同じ髪質と瞳に産んでくれた事を感謝している。 ――それにしても……  右へ左へと身体をひねり、鏡に映ったこの制服姿の自分を改めて観察する。 「うぅん……やっぱり『服に着られてる』って感じだなぁ」  中学の時もセーラー服だったが、この制服は中学の時のそれとは違い、気品の様な物を感じる。  それはデザインの違いだけでは無く、『選ばれた者の学舎』である日咲国(ひさご)学園の制服と言うところが大きいのだろう。  庶民の生まれの私には、分不相応に思えて仕方がないのだ。 「とりあえず、今度は先輩達にイジメられないと良いな……」  小さな溜め息と共に不安を呟きながら鏡を覗き込む。もう一度軽く髪を整え、最後に笑顔を確認して部屋をあとにした。  部屋の前の、やたらと長い廊下を歩いて行くと、玄関の上がり口で、私と同じ制服を着た黒髪の美少女が朗らかに微笑んでいた。 「おはようございます、明日花(あすか)様」 「おはよう、飛鳥(あすか)さん……あと、その『明日花様』っていうのは、やっぱり止めてもらえないかな」  飛鳥さんの整った眉尻がハの字に下がる。 「ですが、わたくしは明日花様の――」 「はいっ、ストップ! 飛鳥さんの言い分もわかるけど、私が嫌なのっ。せっかく今日から同じ学校に通うんだから、飛鳥さんとは友達になりたいの。だから、せめて二人だけの時は……ね?」  飛鳥さんは、困り顔のまましばしば悩んだ後、「はい、わかりました」と答えて微笑んてくれた。  その笑顔と仕種は、相変わらず、女の私でも見惚れてしまいそうになる程に綺麗だった。
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