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『想いは募らんや されど己が身は幻 心を堕つな 人は傍に 其は我に・・・・・・』
硝子のように美しく、硬質な声。
闇の帳のような黒い瞳は慈しむように墓石を見つめる。
「キーナのあれって・・・・・・」
「“祈り”よ」
「いのり?」
返ってきた答えに首を傾げる。
不思議そうに自分を見返してくるタヤクには目もくれず、謳うように言葉を紡ぐキーナを眺めながら、
「そ。全身全霊を傾けて、この世に思いを残さず無事にあの世へ行けるよう、送り出すための儀式っていえばいいのかね?」
と、ミカノは答える。
儀式とはいってもかなり簡略されたものであり、いまではその簡略されたものですら行われない。
死んだら土に還るか灰に変わるだけである。
それでもキーナは祈りを紡ぐ。
想いを吐き出すように、白い手を握りしめながら。
ケイヤはその様子をじっと見つめていた。
「さってとー」
やがてその姿を見飽きたのか、ミカノは両手をパンッ、と叩き合わせてから伸びをする。
そうして懐からこぶし大ほどの丸い石を取り出した。
「キーナちゃんがお祈りしている間に“お仲間”のいる場所を探ってみよっかね」
猫のような楕円の瞳が、いたずらっぽく笑った。
彼女の手に乗っているそれは、ルビーのように深い真紅の輝きを放っていた。
つやつやと滑らかな表面はとても自然に転がっているような石とは思えず、触り心地はひんやりとして気持ちがよい。
なにより目立つのは、その石に刻印された紋様であった。
濃密な赤色に浮かび上がる、獅子宮のシンボル。
石とはいうもののなにかの魔法の道具――マジックアミュレット――に近いような印象を受けるそれは、ミカノたち四人を育てた養父母の形見でもあった。
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