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昔々のこと、ある海のそこに、ひとりの姫がいました。姫は三年前の戦争で家族を失い、国を追放されました。
涙にくれ、各地を転々としましたが、姫を受け入れてくれる国も、人も、静かに眠れる場所さえもありませんでした。
それもそのはずです、姫の父、つまり国王は、それはそれは自分勝手で、さらにその残虐さで、国民はおろか、全国の人々から嫌われていました。
だから反乱が起き、国王は殺され、そして姫は追放されたのです。
姫は泣き、せめて静かに眠れる場所、ただその場所を探すために、旅に出ました。
初めは山。しかし山には、国王の噂を知る動物たちがいるため、追い出されてしまいました。
次には空。しかし空には、同じく噂を知る鳥たちがいるため、追い出されてしまいました。
他にも、森や洞穴、至るところへ行きましたが、どこも静かに眠れる場所は見つかりませんでした。
そして最後にたどり着いたのは海の底でした。海の底にはあの忌々しい噂を知る者はいませんでした。
姫はやっと、静かに眠れる場所を見つけたのです。
やっと、海の底の生活にも慣れたとき、姫が眠るすぐ真上で、一隻の船が嵐によって転覆してしまいました。姫は驚き、すぐさま様子を見るために、海上へ浮上しました。そこには、ひとりの男が虫の息でぷかぷかと浮いていました。
その姿を見て、姫はさらに驚きました。なんとその男は、姫の婚約者だったのです。
姫は言いました。
「どうしたのですか?何故こんなところへ…しかもこんな嵐に」
男は、最後の力を振り絞り、こう言いました。
「あ…あなたを…探しに…」
その瞬間、姫の目は熱湯を被ったように熱くなりました。頬を伝う滴たちが、雨なのか涙なのか、それすら分からなくなったのです。
さらに男は言いました。
「山…空…森…洞穴…あなたを追って一体、どれくらいの月日が経ったのだろう…やっと出会えたのに…もう僕は、あなたを愛することすら…出来はしない…」
そう言って、男は息を引き取りました。
そして悲しんだ姫は、男の死体を海へ引きずり、大きな貝の中で、永遠にふたりで暮らすことを誓いました。
そう、今もどこかで、男と姫は永久の愛のもと、深い眠りについているのです。
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