肴.4

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昔々のこと、ある海のそこに、ひとりの姫がいました。姫は三年前の戦争で家族を失い、国を追放されました。 涙にくれ、各地を転々としましたが、姫を受け入れてくれる国も、人も、静かに眠れる場所さえもありませんでした。 それもそのはずです、姫の父、つまり国王は、それはそれは自分勝手で、さらにその残虐さで、国民はおろか、全国の人々から嫌われていました。 だから反乱が起き、国王は殺され、そして姫は追放されたのです。 姫は泣き、せめて静かに眠れる場所、ただその場所を探すために、旅に出ました。 初めは山。しかし山には、国王の噂を知る動物たちがいるため、追い出されてしまいました。 次には空。しかし空には、同じく噂を知る鳥たちがいるため、追い出されてしまいました。 他にも、森や洞穴、至るところへ行きましたが、どこも静かに眠れる場所は見つかりませんでした。 そして最後にたどり着いたのは海の底でした。海の底にはあの忌々しい噂を知る者はいませんでした。 姫はやっと、静かに眠れる場所を見つけたのです。 やっと、海の底の生活にも慣れたとき、姫が眠るすぐ真上で、一隻の船が嵐によって転覆してしまいました。姫は驚き、すぐさま様子を見るために、海上へ浮上しました。そこには、ひとりの男が虫の息でぷかぷかと浮いていました。 その姿を見て、姫はさらに驚きました。なんとその男は、姫の婚約者だったのです。 姫は言いました。 「どうしたのですか?何故こんなところへ…しかもこんな嵐に」 男は、最後の力を振り絞り、こう言いました。 「あ…あなたを…探しに…」 その瞬間、姫の目は熱湯を被ったように熱くなりました。頬を伝う滴たちが、雨なのか涙なのか、それすら分からなくなったのです。 さらに男は言いました。 「山…空…森…洞穴…あなたを追って一体、どれくらいの月日が経ったのだろう…やっと出会えたのに…もう僕は、あなたを愛することすら…出来はしない…」 そう言って、男は息を引き取りました。 そして悲しんだ姫は、男の死体を海へ引きずり、大きな貝の中で、永遠にふたりで暮らすことを誓いました。 そう、今もどこかで、男と姫は永久の愛のもと、深い眠りについているのです。
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