神の手のひら

6/12
前へ
/12ページ
次へ
人間は、現状が幸福ならばそれ以上は望まないことが多い。たとえその現状が他人から見たら物足りないようなものでも、もどかしいようなものでも。 少年もまた、彼が置かれている状況から一歩踏み出そう、などという気は抱いていなかった。本当につい最近までは。 もちろん、最も仲のいい友達、という程度の関係で満足していたわけではない。恋人同士になれたら、なんて考えはもう何年もずっと心の片隅でくすぶっていた。 それでも、やはり今のこの関係を失うのは怖い。もし勇気を出した結果断られ、それ以降なんとなく関わりづらくなってしまったら? そうなればきっと、少年の人生は大きく変わってしまうだろう。今の少年の幸せの大半は少女と過ごす時間の中にあるのだから。 危険の先の大きな幸福か、危険のない小さな幸福か。ことあるごとに浮かぶその二択、少年はずっと安全な道を選んできたのだ。 そんな少年の心に転機が訪れたのは、たった数日前のことだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加