277人が本棚に入れています
本棚に追加
“店を出す”と決めたとき、皐月と美那には「まず、マンションから」と、引っ越した。
美那は「実家に帰る」といい、マンションと共に旅立った。
それから皐月と共同で住みつつ、資格だなんだと付き合ってもらい、彼女が結婚するまで百合といた。
まだ一年も経っていないが…。
「そろそろ帰ってくるんじゃないん?
第一、うちが勝手に姪っ子連れ出してどうするん?」
『…』
「どーせ、皆が弟ばっかり可愛がるからやないん?」
『そんなこと…』
「うちにはそう、見えたんやけどな~、…あ」
二階の階段を上れば、小さな人影がうずくまるように、百合の帰りを待っていた。
『…百合?』
「兄さん悪いが…、ここに家出娘が居ったに?」
呆れたように見下ろせば、少女は顔を上げる。
「…百合ちゃん」
「何しとんねん?桜?」
兄の声が聞こえてくるが、時間も時間。
「明日、迎えに来てや」
それだけ言って、切った。
「…」
無言でコートの裾を握る姪に、百合は頭を撫でてる。
最初のコメントを投稿しよう!