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錠とか、そんなのをつけるつもりはないけどさ。
君が、俺の側にいたいと言ってくれるように。
望んでくれるように。
できる限りのことはするつもりだよ?
さて。
標的の男の、人生最後のめくるめくセックスもようやく終わりを迎えたようだ。
丸々太った体格のわりには、何度もよくがんばっていた。
男の寝室は広く、分厚いカーテンのかかった大窓が、寝台のすぐ側にある。
窓は閉まっていて、カーテンの隙間から、深夜に登り詰めた満月が覗いていた。
射し込む月明かりが、ナイフのようにサックリと夜を切る。
俺は、離れた位置から針を放った。
狙いは男の後頭部。まっすぐに、脊髄に深く打ち込む。
男は、女の身体にうつぶせになって倒れこんだ。
続けて放った一本を、女の首にも打ち込んだ。
悲鳴も、うめき声もなかった。
男は死んだ。
女のほうは、眠らせただけ。
お仕事終了。
お疲れ、俺。
「……ん?」
富豪オヤジの絶命を確認し、使用した針を回収したときだ。
眠らせた女の髪の色が、やけに鮮やかに目に飛び込んできた。
月の光の中で輝く、明るい、栗色の髪。
肩にかかるくらいの長さで、毛足には弛くカールがかかっている。
そっくりだ。
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