0【ポーに会う前の話】

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ハレーションのように、脳裏に映るのは半年前の記憶。 君の記憶。 思わず触れかけたとき、ふいに、背後に別の気配が現れた。 よかった。警戒していて。 俺は髪にのばしかけていた手を少しずらして、女の首筋に刺した針をなにごともなく抜き取った。 「ごめん。今、終わったよ。遅かったかな」 振り向けば、闇の中で底光りする二つの青い眼光と目が合う。 親父は沈黙したまま、寝台の上に重なった二人に視線を移した。 「時間のことはいい。暗殺に重要なのは、機を待つことだ」 「うん」 わかってる。 頷きながら、親父の視線を追う。 標的の男の後頭部。 女の首筋。 どちらにも、一滴の汚れも見られない。 使用人が部屋をのぞいたとしても、きっと眠っているだけだと思うだろう。 肌に触れるまでは、片方が死体だとはわからない。 「腕を上げたな」 「ありがとう」 「イルミ」 「なに?」 「なにかあったのか」 「なにかって?」 くりっと、首を傾げる俺を、親父はじっと見抜いてくる。 悟らせない。 悟らせない、絶対に。 「……まあいい」 ……よかった、つっこまれなくて。 心臓に悪いよ、ほんと。 「お前の指定した分の仕事は、この一件で最後だ。ご苦労
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