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だった」
「そう。じゃあ、少し休もうかな。急ぎの依頼はないんだよね?」
「ああ」
「……ねぇ、親父。俺がバリバリ仕事するのが、そんなに意外?」
心外だなー、なんて、すっとぼけてみる。
実は、この半年の間、俺は予約分の依頼に加えて、更に向こう半年分の仕事を前倒しでこなしていた。
自分でも無茶をしたものだと思う。
こんなことをするのは初めてだから、なにか理由があるのは明白なんだけど、問いただされても素直に話すわけにはいかなかった。
俺がしようとしていること。
君を家に迎え入れようとしていることは、まだ家族の誰にも話していない。
事前に話すつもりはない。
会わせるだけでいい。
あとは、俺が認めさせてみせる。
「俺に話せない理由があるのか」
「ううん。ただ、欲しいものがあるって、それだけ」
「欲しいもの」
「うん。手に入るかは、分からないけど」
「……」
親父がふたたび何かを言いかけたとき、寝台の女が寝言を漏らした。
もっと、とか、いれて、とか、そういう類いのこと。
俺と親父は顔を見合わせた。
「ずらかるぞ」
「うん」
こっくり。
頷いて、親父の後を追おうとする。
部屋を出る直前、青い視線が再び寝台を射抜いた。
「女の方は殺さなかったのか」
「うん」
「何故」
「何故って……依頼されてないじゃない」
「……」
親父は何も言わなかった。
何も言わずに手を伸ばして、俺の頭をぽんぽんと撫でた。
……え?
………何?
……………もしかして今、褒められた?
「……ほんとに、初めてなことばっかりだよ」
「何か言ったか」
「ううん、なんでもない」
丸い月が登る夜。
家に帰ったら、真っ先に君に伝えよう。
仕事が終わったから、俺の側においでって。
……そういや、連絡先なんて知らないけど、大丈夫。
絶対につきとめてみせる。
だから、ポー。
迷わずに来て――。
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