其之参

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「特にこのお面、かな」 「??…わからない」  考えたこともあったが、いつからか考えることをやめ、彼のファッションの類いなのだと思っていた。  狐面を頭から外して手に持つ。 「これは、ここに来て初めて君のお母さんに会った時の事を思い出して作ったんだ」 「どうして?」 「僕がこの神社に来たとき君のお母さんには狐の耳と尻尾が付いていたんだ。後から話を聞いてここが狐を奉ってる神社ってことを知った」  確かにここは昔から狐の神様を奉ってる。そして私の一族は代々巫女を務めている。 「よくよく考えてみたら普通の人間に狐の耳や尻尾が生えてるわけが無い」  つまり彼は知ってしまったのだ。 「僕は考えたんだ」  私が。 「君達が」 「「本当の神子だ」……って」  いつからだろう。彼と仲良くなったのは。 「僕は君に追い付きたかった。人間でありながら、狐の神様に」  いつからだろう。彼の話を楽しみにするようになったのは。 「追い付けたかはわからないけど、こうして君の隣に居れるようになった」  彼は再びベンチの、私の隣へと座る。 「人間でも神様でもどっちでもいい。だけど、人間であり神様でもある君が好きだ」  たしか、いつだかに彼は言っていた。『好き』っていう感情は暖かいんだって。  その意味が、今わかった気がする。 「よかったら──僕と結婚してください」 「……喜んで」  感情とは面白いものだ。  こんなに暖かいのに、こんなに嬉しいのに。  自然と涙が流れてしまうのだ。
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