第二話 「久遠家」

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(昔から人当たりよくて、面倒見がいい兄貴肌なんだが、ここまで邪険にするなんて、よっぽどの理由なんだろうな) 伸二も詳しくは知らない。ただ、彼の兄への態度と学生時代の父親との接し方などといった断片的なものから推測したに過ぎない。 聞くのも失礼だろうし、と思って、何も聞かないだけであった。 「で、伸二。お前、例の美人刑事さんとはどーなんだよ」 ふいにニヤニヤしながら、辰巳が尋ねた。 伸二は、考え事を頭から隅に追いやった。 辰巳の言った美人刑事……伸二がある事件で知り合った相良綾女である。 伸二にとって、忘れられない事件である。 伸二は、彼女を思い出すと静かに微笑むと口を開く。 「先輩とは、そういう関係じゃねーよ」 「おいおい、はぐらかすなよ。今夜は、トコトン聞いてやるからな!付き合えよ」 辰巳は、冷やかす様な笑みを浮かべながら、互いのグラスに琥珀色の液体を注いだのだった。
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