12人が本棚に入れています
本棚に追加
*
気付けば、二人だけで缶を三本空けていた。量としては多くはないが彼らは話に夢中になってほとんど飲まず、二人で空けたにしては相当量の時間を消費したことになる。
その間もちろんゲームの誘いもあったが、それをことごとく断っていた。酒が入っているためか冷やかしの声があったが、二人は気にもかけない。
「ねえ、ちょっと暑くない?」
美奈の顔はほんのり赤くなっていた。原因としては暖房やゲームに興じる人々の熱気が考えられるが一番はやはり――
「ああ、アルコールが回ってきたかな。涼みにベランダ出る?」
「……でもコート持ってきてないよ」
「寒くなったらすぐ戻ればいいさ」
空になった缶と紙コップを部屋の隅に置かれたゴミ袋に入れ、二人は素早くベランダに出た。
「思ったより冷えるな」
「酔いも醒めちゃいそうだよ。ジャンパーでも借りれば良かったかな」
「でも、これを酔った頭で眺めても面白くはないんじゃないか?」
幸助は、目の前に広がる夜景を顎で示した。
「わあ……」
美奈の口から、思わずそんな言葉がこぼれた。いや、もはや言葉ではない。溜め息に似た何かだ。
この町の中心部では大きな道路が二つ、国道と県道が直角に交わっており、それが光点の十字架として夜の町に鎮座している。それ以外の小さな道の街灯も、ビルや家の明かりも電車の光も、十字架を引き立てるためのイルミネーションに見えた。そのきらびやかな景色、切るような凛とした空気、それらがぼうっとしていた頭を一気に冷ました。いや、醒ましたと言う方が適切かもしれない。
「旅館が町を見下ろす丘に建ってるから夜景がこんなに鮮やかに見えるんだな。しかも市街地から離れてるから、星も比較的多い」
星は彼らが住んでいる都会に比べて多いのであり、決して多く見えるわけではない。だが、それでも美奈の心をときめかすのには十分だった。
「素敵……やっぱり天文研究会に入れば良かったかも」
「星好きなの?」
「うん。家の近くにプラネタリウムがあって、毎月のように行ってたんだ。三年前に閉館しちゃったけどね。星にまつわる神話とか歴史とか、面白い話がいっぱい聞けて楽しかったんだよ。係の人も詳しくってね」
夜空を見つめる美奈の目は、星の光を反射しているかのように文字通り輝いていた。
「そりゃ、残念だったな」
最初のコメントを投稿しよう!