12人が本棚に入れています
本棚に追加
夜に咲き誇る花の群生地――そこが私の居場所だ。
その花の一つを手に取る。作り物じみた、血のように赤い花。星明かりしかなくてもその鮮やかさは褪せることがない。
花弁は一度握り潰されたかのように萎びて、今にも壊れそうだ。それでいて涙を流しているかのように濡れて輝いている。
視界を埋め尽くすのは、色こそ違えど似たような花ばかり。人はこれを見て感動するのか恐れるのか、私にはもはや分からない。
風もないのに、花弁とも花粉とも取れる無数の色とりどりの粒が星空に舞う。飛んではまた花の間に落ちて埋もれる。この花畑では、絶えずこのような現象が繰り返されている。
私の手の中にあるこの花はここにしか咲けないもので、故に名前はない。ただ、花言葉はある。それは『癒えぬ悲しみの傷』。私がつけたものだ。
花言葉――彼らはなんて素敵な文化を持っているのだろう。
「――ellan――」
私の名を呼ぶ声がした。どうやら、もう『次』を必要とするらしい。私が声に応えると、足下の一部が星空に変わる。私と声が唱えるのは、忌まわしき祝詞。
『色褪せた世界に束の間の別れを――そして束の間の出会いに酔い知れて――後に知る悲しみの傷を舐め合うことを我は望もう――』
幾重もの精神の虚を眺め積み重ねてきた私は、新たな虚を……悲しみの傷を紡ぐ為の者たちの選定を始めた。
――Adaptation par l’auteur,
d’un souvenir de H
最初のコメントを投稿しよう!