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オープン時には彼女の家にもチラシが来たし、何度か前を通りかかったことはあるが、手近なところに通い慣れた店があるので、わざわざこちらに来ようとは思わない。それなのに彼女がここにいるのは、ここが待ち合わせの場所だからだ。
窓ガラスに貼られた特売のチラシを興味なさげに眺めていると、自動ドアから一人の若い女性が入ってきた。
「美奈、お待たせ」
現れたのは背の高い茶色の短髪の女性。白いTシャツにデニム地のベスト、黒のスパッツという、ワンピースの美奈とは対照的に活動的な出で立ちだった。
「おはよう、菜摘ちゃん」
「うん、おはよ」
と菜摘と呼ばれた女性は軽く返した。実のところこの二人、年齢的には殆ど差がない。だというのに美奈は少女と形容したくなるくらい幼げで、菜摘は女性と表現した方が適当と思えるくらい大人びている。それほど二人の纏う雰囲気は違っていた。
「今日も暑くなりそうだね」
「うん、残暑厳しい、ってのはまさにこのことだ。さ、追いつかれる前に早く買い物済ませちゃおうか」
と言って菜摘は、右手に提げていたブランドのロゴが入ったハンドバッグを左手に持ち直した。
「じゃ、入ろうか」
――その買い物の内容というのは、今日の四人分の昼食だ。そして彼女らが今からやろうとしているのは、三泊四日の旅行なのだった。
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