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親から貰った名前を誉められて気分を悪くする者などいないだろう。美奈は純粋に嬉しかったのだが、素直に嬉しさを表現したりはしなかった。
「……ありがとう」
その冷たい言葉に青年は軽く笑う。今度は彼が名乗ろうとするが、美奈がそれを言葉で切った。
「たかのくん、だっけ?」
「うん、大体合ってる」
「大体? じゃあたかのくんって呼ぶね?」
訂正しなかった彼も彼だが、これはそうしなかった彼への、美奈なりの意地悪だった。
「いや、幸助でいいよ。他の友達にもそう呼ばせてるから」
どうやら彼は相当酒が回っているらしい――そう思った美奈だったが、何故だか彼を嫌いにはなれなかった。自分から近づいた手前そういう考えには至れない、というのもある。
「じゃ……幸助君?」
躊躇いがちに言ってから美奈はそっぽを向いた。
「ねえ、天野さんって何年生?」
「一年だけど」
「じゃあ同い年じゃん。呼び捨てでいいよ。代わりに俺も美奈って呼んでいい?」
さすがにこれには反発心を起こさずにはいられなかった。顔が赤くなったのは、酒が回ったからだけではないはずだ。
「それはやめてよ。周りにデキてるって思われたら……」
誰も困らないが。
「ごめんね、天野さん。ちょっとしたジョークだから」
とはいえその呼び方も、彼女には他人行儀らしくて嫌だった。しかし呼び捨てにされるのも違和感がありそうだ。そんな矛盾したことを思いはしたが、呼び方一つにこだわっている自分がバカらしくなり、気分を紛らわそうと口に酒を含む。
「学科どこ?」
幸助はまず、そんな差し障りのない話題を切り出した。
「……日文。えっと……幸助君、は?」
「史学だよ。っていっても、まだ高校の延長みたいな事しかやってないんだけど。一年生なんだから当たり前か」
「ふーん」
話が続かない。互いに興味がないからだろう。幸助は次の話題を探す。
「高校ん時は何してた?」
「高校は……私あまり行ってなかったんだよね。病気がちだったから、部活とか委員会とかもやってなかったし。でも留年しないで卒業出来たし、良い友達が出来たから楽しかったよ」
「へえ、どんな?」
「テストの度に家でお泊まりの勉強会開いてくれる子でね。それが楽しくって、テストよりもそっちがメインって感じで。進級してクラスも勉強する科目も別々になっても集まってやってたんだから、変な話だよね」
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