第一章 ゼルセガイアの精霊 前編

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「アノ! 早く水をかけて」  後ろにいた青年は、少女と同じ顔をしていた。身長差のせいかこちらが年上に見えるが、双子かもしれないとキリエは思う。アノは、網に捕われたキリエを覗き込む。 「イリーナ……、これ、本当にそうなのか?」  アノは失礼にもキリエを指差しながら、イリーナに問う。 「だって、黒髪に、黒目なんて珍しいし、間違いないでしょ」  イリーナは自信満々に言い切る。僅かの疑いも持ってはいないようであった。 「でも、あれって喋るのか?」 「喋るんじゃない?」  わけの分からない会話にキリエがついて行けるはずもない。口も挟めず、逃げ場もなく、呆気に取られるだけである。 「逃げる前に、早く捕まえなきゃ! クロモノマネザル!」  イリーナの一言に、キリエは思わず口を挟む。 「サル!? 僕はサルじゃあ……」  キリエの叫びも間に合わず、どこからか取り出されたバケツの水が少年を襲った。
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