三重院 刹那

2/4
前へ
/38ページ
次へ
俺には母親がいない。  まだ六歳の頃、親父から交通事故で死んだと聞かされた。 その時は、死ぬって意味があんまり良くわかっていなくて、どこか遠いところに行っているんだと思っていた。   でも、月日が経つにつれて母がもう二度と俺の前に現れないという事を実感していった。 ……こういっちゃなんだが、家はすごく裕福で世間からも恵まれた子供だった。小さい頃はよく家の使用人達が本当に可愛がってくれていたし、親父や母さんが一緒の時は何度も旅行に行った。   でも、母の死をきっかけに親父ともギクシャクして、俺も中学に入る頃にはすっかり心が冷え切っていた。   他人の事なんざ、そこまで興味をもてなかった。   そのせいか中高の頃に特別に仲が良かった奴はいないし、相手からも好いてくれているとは思わなかった。 ただ、女だけはおかしいくらい俺の周りに群がって集まっていたのを覚えている。  
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加