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――ある時偶然知り合った男は、とあるマンションの管理人で。
しかも、とんでもなく暇人思考のお人好。
…そのお人好のおかげで俺は今、築六十年、家賃月々四万の木造ボロアパートから脱し。
新築、家賃格安セキュリティ万全の学生専用マンション、《クロウ・ラヴィート》へと移り住んでいる。
「…夕ー葵ー。」
「っ!!!……アンタっ!」
朝、登校の為にマンションを出た直後。
何時の間にかすぐ背後にあった気配と声にどきりとする。
並大抵の事では動じなくなった筈なのに、異常な程相手の存在に動揺している自分。
……イラつく。
「驚いた?ゴメンゴメン。今からガッコ?」
「…………うん。」
(……何の用だよ。)
顔を逸らして、白黒(モノクロ)に近い視界から男の影を消しても、男の声は追って来る。
役立たずの両目より正確な聴覚が、今は憎い。
「うーん…遅刻しそうなら乗っけてあげるんだけどね、バイク。」
「…………いいよ。…………忙しいだろ。」
(……色々やる事ある癖に。高校生の子供(ガキ)のお守りしてる場合かよ…。)
わざわざこんな態度の悪い相手にまで気を割く必要が何処にあるんだ、ほっときゃいいだろ。
俺なんかに構う時間があったら、もっと自分の為に有効に…………
(……ていうか。何でこんな朝早いんだよ、まだ寝てりゃあいいだろ。…ゆうべだって遅かったんだろが、アンタ。)
バイトの上がりがだいぶ遅く、深夜過ぎにこのマンションに辿り着いた昨日。
何の気無しに見詰めた先の部屋の位置に、まだ明かりは煌々と点いたままで。
……普段飄々としてやがる癖に、なんだかんだで仕事はきっちりこなすクソ真面目野郎なこの男に、思わず苛立ちを覚えたのは記憶に新しい。
……っあ゙ぁーもう、いちいちこんなお人好に苛立つ自分にもイライラする。
「………クスッ、遠慮しなーい♪……イイコだね。」
空気の動く気配に、頭の上に触れた他人の体温。
直前までの思考が一瞬で消し飛ぶ。
思わず、火傷でもした人間みたいに慌てて離れた。
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