「――理由も知らない。」

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……何時からは解らない。 けれどずっと昔、物心つく前から俺の中には、その純然足る事実が常に居座り続けていた。 ――……俺は、 欠陥品 だ。 優しいのだと、言ってくれた人がいた。 物静かで、周囲が解りにくいだけなのだと。 ……けれど、俺は知っている。 俺は一度も、優しくしたいと思って、何かをした事なんかない。 物静か?……違う、感情が動かない。 解りにくい。……のは、俺に、目に、口に、顔の筋肉に。 表情に、それに直結する確かな感情が形にならないから。 ………俺に、人らしい感情が欠落しているからなのだと。 俺は、知っているんだ。 「……っはぁ…、」 ……そろそろ終わりにしよう。 物思いに耽りながらなんて、身にもならない。 これ以上やっていると、シャワーを浴びる時間もなくなる。 額から伝い、こめかみを流れる汗をタオルで拭う。 静けさと、朝の冷気。 今だ眠りの淵にある人々の睡魔につられて、まどろんでいるような陽の光が心地良いから、早朝の一人稽古は苦にならない。 何より、これは自分の為。 (……俺は早く、兄さんに追い付かなきゃいけない。) 武術も、知識力も、何もかも。 天と地程に差がある兄の隣に立ち、彼の役に立つ人間になる為には、どれ程の努力でも過ぎるという事はない。 古くから続く武家の名門。 一族の家名を十八で背負う事になった兄は、ずっと誰よりも努力し、ずっと大変な思いをしてきた。 一度も弱音を吐かず、ただ前だけを見て真っ直ぐに突き進んできた兄は、荷物にしかならない俺を引き取り、今日まで育ててくれた。 ………不器用に、大切にしてくれたのだ。 こんな俺を。 だから早く彼の役に立てる人間になりたい、能力のある人間に。 兄の為に働けるように―――――、
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