2人が本棚に入れています
本棚に追加
……何時からは解らない。
けれどずっと昔、物心つく前から俺の中には、その純然足る事実が常に居座り続けていた。
――……俺は、 欠陥品 だ。
優しいのだと、言ってくれた人がいた。
物静かで、周囲が解りにくいだけなのだと。
……けれど、俺は知っている。
俺は一度も、優しくしたいと思って、何かをした事なんかない。
物静か?……違う、感情が動かない。
解りにくい。……のは、俺に、目に、口に、顔の筋肉に。
表情に、それに直結する確かな感情が形にならないから。
………俺に、人らしい感情が欠落しているからなのだと。
俺は、知っているんだ。
「……っはぁ…、」
……そろそろ終わりにしよう。
物思いに耽りながらなんて、身にもならない。
これ以上やっていると、シャワーを浴びる時間もなくなる。
額から伝い、こめかみを流れる汗をタオルで拭う。
静けさと、朝の冷気。
今だ眠りの淵にある人々の睡魔につられて、まどろんでいるような陽の光が心地良いから、早朝の一人稽古は苦にならない。
何より、これは自分の為。
(……俺は早く、兄さんに追い付かなきゃいけない。)
武術も、知識力も、何もかも。
天と地程に差がある兄の隣に立ち、彼の役に立つ人間になる為には、どれ程の努力でも過ぎるという事はない。
古くから続く武家の名門。
一族の家名を十八で背負う事になった兄は、ずっと誰よりも努力し、ずっと大変な思いをしてきた。
一度も弱音を吐かず、ただ前だけを見て真っ直ぐに突き進んできた兄は、荷物にしかならない俺を引き取り、今日まで育ててくれた。
………不器用に、大切にしてくれたのだ。
こんな俺を。
だから早く彼の役に立てる人間になりたい、能力のある人間に。
兄の為に働けるように―――――、
最初のコメントを投稿しよう!