2240人が本棚に入れています
本棚に追加
それから私に向き直った男は、さして感慨もなさ気に、
「鍵なんか最初からかけてないから。悪いね、うちの大将がビビらせて」
とこちらを覗き込んできた。
細身で、背が高い。
香水みたいな匂いがする。
「頭、大丈夫?」
「え?」
様子をうかがうように首を傾けた男は、一変、張り付いたような笑顔に表情を変えた。
「殴っちゃってごめんね?」
もともと切れ長の目をさらに細めて、金髪もあいまってきらきらした会心と言わんばかりの満面の。
あ、外ヅラ。
「女の子だと思わなかったから」
「…………」
の割に、失礼。
この人がどうやら、私を殴った「菅」らしい。
「出て来ていーよ。アンタを勝手に連れ込んだアイツは、あっちにいるから」
「…………」
思ったより軽く出た許可に従いながら、部屋を出る。
そこは普通の家の、細い廊下だった。
見回すと、奥には玄関口らしき黒いドア。
ただのマンションの一室……に見える。
金髪の男が示したのは、玄関とは逆側だった。
リビング、ダイニングらしき広そうな空間の端が目に入る。
最初のコメントを投稿しよう!