取り引き

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それから私に向き直った男は、さして感慨もなさ気に、 「鍵なんか最初からかけてないから。悪いね、うちの大将がビビらせて」 とこちらを覗き込んできた。 細身で、背が高い。 香水みたいな匂いがする。 「頭、大丈夫?」 「え?」 様子をうかがうように首を傾けた男は、一変、張り付いたような笑顔に表情を変えた。 「殴っちゃってごめんね?」 もともと切れ長の目をさらに細めて、金髪もあいまってきらきらした会心と言わんばかりの満面の。 あ、外ヅラ。 「女の子だと思わなかったから」 「…………」 の割に、失礼。 この人がどうやら、私を殴った「菅」らしい。 「出て来ていーよ。アンタを勝手に連れ込んだアイツは、あっちにいるから」 「…………」 思ったより軽く出た許可に従いながら、部屋を出る。 そこは普通の家の、細い廊下だった。 見回すと、奥には玄関口らしき黒いドア。 ただのマンションの一室……に見える。 金髪の男が示したのは、玄関とは逆側だった。 リビング、ダイニングらしき広そうな空間の端が目に入る。
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