プロローグ

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嫌な音が聞こえた。 頭が割れそうなほどの喧騒の中、そんなものがちゃんと私の耳に届いたのは不思議だけれど。 確かに聞こえた気がした。 そして、空気を裂くように。 秋野さんの苦悶の声が響き渡った。 「秋野さん!!」 何も考えず、無我夢中で喧騒に飛び込んだ。 殴り合う群集の中に飛び込んで、うずくまる彼の元へ駆け寄る。 「秋野さん!!」 額に汗を浮かべて唸る彼の前に膝をつき差し延べようとした手が、届く前に。 「───っ!」 誰かに頭を容赦無く髪の毛ごと掴まれた私は、あっという間に無理矢理立ち上がらされた。 「い、た…っ!」 頭の後ろに回した手で、髪を掴む大きな手を引き剥がそうともがく。 つま先立ちの状態で、髪の毛が引っこ抜けそうなほど引っ張られて。 あまりの痛みに耐えきれず涙をこぼした目が捉えたのは。 場にそぐわない穏やかな微笑み。 その顔を知っていた。 「あれ、女の子?」 その嫌に大袈裟に驚く声も、知っていた。
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