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逃げようとしても、ぎりぎりと容赦無く髪を掴む手をはずせない。
私の力では敵わない。
でも逃げなきゃ。
私の足元では、秋野さんが足を押さえて苦しんでいる。
秋野さんを連れて行かなきゃ。
「はな…、して…っ!」
怖い。
目を丸くして私を見つめる茶色い瞳が、私を捕らえて離さない視線が、怖い。
「ねえ、どこかで会ったよね?どこでだっけ、君って───」
「放して」と叫ぶ私の声が聞こえていないかのような、私の抵抗なんか感じていないかのような、【オギ】。
嫌、怖い。
痛い、痛い!
嫌悪感からきた火事場の馬鹿力。
ぶん、と力いっぱい体ごと腕を振ると、それが彼の鳩尾に勢いよくぶつかった。
「うわっ!」
彼が顔をしかめた隙に、痛みに耐えてその手から逃れる。
そのまま彼の腕を振り払った瞬間だった。
「あ」
頭に今度はガン、と鈍い痛みが走って。
なんだか間の抜けた声が聞こえて。
「うわ、頭!」
いきなり焦点が合わなくなった視界が、ぐわんと気持ち悪く揺れる。
「あー、頭は無いだろ、菅!」
【オギ】の焦った声。
すうっと目の前が暗くなって。
何が起きたのかもよくわからないまま、私は柔らかい香りに包まれた。
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