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昔から、お母さんに好かれていない事は知っていた。
「おはよう」も「ただいま」も「おやすみ」も、無視される。
私とお母さんの間に会話は無くて。
夜はどこかに行ってしまうお母さんは、夕ごはんを作ってくれることもいつかしなくなった。
机に千円札がぽつんと置かれているのを最初に見たのは、いくつの時だっただろう。
夜、お母さんが男の人と帰ってくる日は、部屋を出るなと言い渡された。
部屋に篭っても聞こえてくる、お母さんが男の人を誘惑する甘ったるい声。
眠れないほどうるさい嬌声。
何より、相手の男の息遣い。
どんなに顔がかっこよくても、どんなに服が小綺麗でも、その時出す音は誰でも同じで。
気持ち悪くて吐きたくなって、いつからかそんな日は自分から家を出るようになった。
物凄く勇気を出して、「外にいる」とだけお母さんに言った。
お母さんに殴られた事なんか無いし、それどころか叱られた事すら無い。
それでもそんな一言を言うのに、私は勇気を振り絞っても震える声しか出なかった。
お母さんは情けない声を出す私を見て、いつも何も言わずに財布からお札を引き抜いた。
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