2238人が本棚に入れています
本棚に追加
全身に込めていた力を抜くと、少年はまた軽薄に笑った。
「じゃあそこにいて。俺何か食べたいから。あんたもコーヒーくらい飲む?」
「…………」
「……すぐ戻るから。あと、あっちの車にもう一人いるから。大丈夫だと思うけど、逃げないでね」
「…………」
あっさりと手を離され、少年は足早にホテルへ入って行く。
身動ぎ一つできなかった。
そしてそのまま、言われた通りに突っ立っていた私の背中に。
「───やっと居なくなった。あれ、誰?」
低く冷たい声が掛からとともに、ものすごい勢いで腕を掴まれ、立ち上がらされた。
その顔を見ただけで、涙が出そうに安堵した。
同時に心底嫌気がさした。
この期に及んでここから逃げ出したがっている、自分に。
最初のコメントを投稿しよう!