壊れた日常

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一人の少年、伊吹 華威【イブキ カイ】は高校の教室で真面目に授業を受けている『ふり』をしていた。 授業の内容など頭に入らない。 ――別にいい。 それが華威の考えだった。黒ではなく濃紺と言った方が近い色をした長髪を一つに束ね、血のように紅いゴムで留めた姿はその中性的な顔立ちも相まって女性にも見える。 ――何か、楽しいことはないのか? いつも華威が考えること。幼い頃に両親を亡くし、頼りにしていた親戚に遺産を騙し盗られ、二つ下の障害を抱えた妹と力を合わせて生きてきた華威は日常を退屈に感じていた。 『やれば何でも出来る』 華威のこの特性が彼の日常から刺激を奪っていた。他人から見ればとても羨ましいのだろうが、実際に持っていると世の中はつまらない。何事にも張り合いがないのだ。 「こんな退屈な世界…ぶっ壊れないかな……」 何と無く口にしたこの言葉。 それはすぐに叶ってしまった。
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