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佐々泉水
定期テストの解答用紙で何よりも最初に書くことは、クラスや出席番号ではなく名前。
一種の儀式めいた行為であり、願かけと言われても否定しきれない。
しかし、一番初めに名前を書いてしまえば、安心して問題に取り掛かることが出来る。満点を取れていても名前が書かれていなければ点が無いことと同義なのだから。
故に、何を置いても名前を書くという行為に無駄はない。
「しっかしまぁ、よくも飽きずに満点ばっかだよなー。たまには斜めの線が恋しくならないか?」
「ならない」
全教科分の返却されたテストを並べ、銀縁の眼鏡を掛けた青年が学習机に向かう泉水を見た。
泉水は無表情でオレンジジュースを飲んでいる。
「家庭教師のオレの出る幕が完全に見当たらないのは、ちょっと・・・どうかとも思ったりする訳なんだが・・・いや、依頼はそんなんじゃないから構わないのかもしれないけど」
腕を組んで項垂れる泉水の家庭教師、伊瀬巧は一人でぶつぶつ呟いた。
「質問ならしてるでしょ?」
「泉水のしてくる質問は大学生レベル!オレでやっと教えられるぐらいのレベルだっつーの。ちゃんと今の学年に合った質問してくれよ」
ストローからズズズという音と共にオレンジジュースの供給が無くなった泉水は、テストが広げられているテーブルの下に置かれているオレンジジュースのペットボトルを取る為に立ちあがった。
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