1・彼女の当たり前

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しかし、と巧は泉水の姿を眺める。 かわいくあろうとは思ったことがないと呟いたが、果たして本当にそうなのだろうか? つい先日、泉水は髪を切った。 放置されていた背中まで伸びた髪は、今や肩下にまで短くなり、前髪も作られている。服装のバリエーションも富んで、巧が家庭教師を始めた頃よりもオシャレになった。 無理をしているように、見えなくもない。 生き急いでいると表現するより、背伸びをしているという表現がしっくりくる。 心配するまでには至らないが、少し気にはなる。 気が付けば巧はテーブルに肘を付き、頬杖をついてじっくり泉水を見ていた。 「ジロジロ見られると、気持ち悪いんですけど・・・」 怪訝な目を向けられて、ハッと我に返る。 「あぁ、悪い」 巧が泉水の両親から依頼された内容は、成績を上げることではなく、逆に勉強する手を止めること。 することが無ければ寝る間も忘れて勉強し続ける娘を何とかしてくれと頼まれたのだ。それまで巧は実家の病院で働く為に勉強する医大生だった。 元から頭の良い泉水の家庭教師をする事は簡単だった。 ただ話し込むだけで良かったのだから。自分の勉強の邪魔にもならない。 しかし、それは逆に話題が無くなってしまうと、途端に暇になってしまう。 少し考え込んでしまえば先程のように泉水を観察してしまうし、放っておけば泉水が勉強に集中してしまう。 頼まれたからには、キチンと仕事をこなしたい。 「・・・で、質問には答えてくれないの?」 いつの間にかテーブルの向い側で同じように頬杖をついている泉水が首を傾げて巧を見ていた。 「え?」 .
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