1・彼女の当たり前

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それを気にも留めない泉水は、本当に嫌がっているのだろう。あと、本当に見た目を気にしていないというのもあるのだろうけれども。 「まったく・・・」 どうしてオレが代わりに泉水の外見を気にしてやらないといけないのか、と溜息を零しながら乱れた髪を戻してやる。 テーブル越しに髪を撫でられ、客観的な図を想像した泉水は慌てて巧の手を振り払い、自分で髪を撫で付ける。 振り払われた手の行き場を失った巧は未だ並べられているテストに目を向けた。 丁寧な文字で埋められた解答。 その中でも一際異彩を放つように美しく書かれている場所があった。 名前だ。 数学も。 英語も。 国語も。 すべての教科の解答用紙の名前を書く欄に注目する。 「・・・・・・やけに名前が丁寧に書いてあるな・・・」 筆圧や、わずかな筆跡の違いから、名前に対して問題を解くよりも気合の入り方が違うことが文字通り<目に見えて>よく分かる。 解答の文字も、負けず劣らず綺麗ではあるのだけれども。走り書きでさえもまるで筆で書かれたのではないかと・・・と心の中で呟き、巧はいやいやと首を横に振る。 .
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