135人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ上林さん、今日の夜空いてるかしら?」
聖蘭女子大学正門前。
突然、肩を叩かれ振り向く萌子。
そこには同じ大学で、同じ学部の知り合いがいた。
知り合いといっても、講義室でたまたま目が合えば会釈する程度の仲である。
勿論、今まで口をきいた事など無い。
自分の名字を知っていた事に驚きながら、萌子は上目遣いを彼女に送る。
「あっ えっと……」
戸惑う萌子。
それもそのはず、言葉を交わした事が無いのだから、彼女の名前を萌子は知らない。
(せっかく声をかけて貰ったのに、名前を知らないとは言えないし)
「あっ、もしかして驚ろかせちゃった?ごめんなさい」
彼女は舌をペロッと出して可愛く笑う。
「あたし、同じ学部の周東ユキって言うの。良かったらユキって呼んで!」
底抜けの明るい笑顔が、萌子に眩しく光る。
クリッとした大きな瞳、勝ち気そうに上を向いた口角。
周東ユキは、栗色のボブスタイルが良く似合う太陽のような女性だ。
「ユキ……さん。あの……何でしょうか?」
上目遣いにオドオドと、今にも消えそうな声で聞く萌子。
「あのね、今日T大の男の子達と合コンがあるんだけど人数が足りなくて……良かったら今日だけでいいからメンバーに加わってくれないかな!?」
「合コン、私が?とんでもない!」
萌子は慌てて黒髪を左右に振った。
ユキは、拝むように胸の前で両手を重ねる。
「そこを何とかお願いよ。助けると思ってさ……他に頼める人居ないのよ」
「でっでも、私なんて行ってもシラけるだけじゃ……」
「そんなに固く考えないでも大丈夫だって!来てくれるだけで良いんだから。
それに、あたし前々から上林さんと友達になりたいって思ってたのよ。
ね?これが良いキッカケになると思わない?」
「友達?私と?」
うんうん、とユキは頷く。
「その証拠に、あたしちゃんと上林さんの名前も知ってるよ。萌子さんでしょ?」
「…………」
彼女の言葉に萌子は黙り込む。
ユキは顔を傾け、甘え声て懇願した。
「ねぇ、お願い!」
最初のコメントを投稿しよう!