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「ねぇ上林さん、今日の夜空いてるかしら?」  聖蘭(せいらん)女子大学正門前。 突然、肩を叩かれ振り向く萌子。  そこには同じ大学で、同じ学部の知り合いがいた。 知り合いといっても、講義室でたまたま目が合えば会釈する程度の仲である。  勿論、今まで口をきいた事など無い。 自分の名字を知っていた事に驚きながら、萌子は上目遣いを彼女に送る。 「あっ えっと……」 戸惑う萌子。  それもそのはず、言葉を交わした事が無いのだから、彼女の名前を萌子は知らない。 (せっかく声をかけて貰ったのに、名前を知らないとは言えないし) 「あっ、もしかして驚ろかせちゃった?ごめんなさい」 彼女は舌をペロッと出して可愛く笑う。 「あたし、同じ学部の周東(しゅうとう)ユキって言うの。良かったらユキって呼んで!」  底抜けの明るい笑顔が、萌子に眩しく光る。 クリッとした大きな瞳、勝ち気そうに上を向いた口角。 周東ユキは、栗色のボブスタイルが良く似合う太陽のような女性だ。 「ユキ……さん。あの……何でしょうか?」 上目遣いにオドオドと、今にも消えそうな声で聞く萌子。 「あのね、今日T大の男の子達と合コンがあるんだけど人数が足りなくて……良かったら今日だけでいいからメンバーに加わってくれないかな!?」 「合コン、私が?とんでもない!」 萌子は慌てて黒髪を左右に振った。 ユキは、拝むように胸の前で両手を重ねる。 「そこを何とかお願いよ。助けると思ってさ……他に頼める人居ないのよ」 「でっでも、私なんて行ってもシラけるだけじゃ……」 「そんなに固く考えないでも大丈夫だって!来てくれるだけで良いんだから。 それに、あたし前々から上林さんと友達になりたいって思ってたのよ。 ね?これが良いキッカケになると思わない?」 「友達?私と?」 うんうん、とユキは頷く。 「その証拠に、あたしちゃんと上林さんの名前も知ってるよ。萌子さんでしょ?」 「…………」 彼女の言葉に萌子は黙り込む。 ユキは顔を傾け、甘え声て懇願した。 「ねぇ、お願い!」
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