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赤色信号。再び溜まり始めた人の固まり。
「とにかく心配しないで」
萌子は、そうピシャリと終止符を打つと通話を切り、週末の人波の流れに身を委ねた。
どこまでも途切れの無い人混みの中、ユキから渡された案内状を片手にパブの場所を探す。
間もなくすると、ある雑居ビルの前で立ち止まった。
パブの名前は【ウェスタン】
どうやら、このビルの三階にあるようだ。
エレベーターに乗り、3の数字を押す萌子。
緊張しているのか、指先が微かに震える。
エレベーターを降りると、何店舗かある店の中から木製でできた扉が目に止まった。
店先の看板には【パブ・ウェスタン】と電飾文字が赤く光っている。
(間違いない。……ここだ)
萌子は恐る恐る扉を開く。
すると、途端にアップテンポなBGMが彼女の鼓膜を出迎えた。
そろりとドアの隙間から店内の様子を伺うと、カウボーイハットに白シャツ。赤いバンダナを首に巻いた、ジーンズ姿の女性と目が合った。
彼女は店員なのか、今にも溢れ出しそうな泡のジョッキを両手に持っている。
「いらっしゃいませ!中にどうぞ!」
営業スマイルを向ける店員。
「はっ、はい」
萌子は慌てて店内に入り、後ろ手に扉を閉める。
すると、店員は彼女に背を向け、店の奥へとジョッキを運んで行った。
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