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店内は明るく、全体的に昔のアメリカ(西部開拓時代)を思わせるような装飾が施されており、最奥の壁に貼られた特大ポスターからは、両手に銃を持ち、怖い顔をした男性ガンマンがこちらを睨んでいる。
十程のカウンター席と二十程のテーブル席。
差ほど広くない店内は全てが満席だ。
客層のほとんどは、自分と年の変わらないような年代だと思う。
皆、楽しそうに騒ぎ、酒を飲み交わしている。
萌子は、その中でひたすら視界を振り、ユキの姿を探した。
その時
「上林さん、こっちよ!こっち!!」
カウボーイポスターの真下。
団体予約席からユキが大きく手を振った。
「ユキさん……」
彼女の姿を見付け、ホッと胸を撫で降ろす萌子。
男女合わせて二十人は居るだろうか?
期待に胸膨らませ振り返る男達。
だが、その表情は、萌子を見るなり失望の苦笑いに変わる。
ユキの手招きにより、おずおずと席についた萌子に待っていたのは、愛想笑いと事務的にも似た自己紹介だった。
店員が、萌子の前に泡の立つビールジョッキを置く。
「それじゃあ全員揃ったし、乾杯しましょうか?」
萌子が現れた事で、一気に重苦しくなった場の雰囲気を盛り上げ様と、ビールジョッキを高々と上にあげるユキ。
やや厚めの下唇に、淡いピンクのグロスがプルンと光る。
ほんのり上気した彼女の顔は、女から見ても色っぽかった。
「今日の出逢いに乾杯!!」
カチンッと音をたてて、軽やかにぶつかり合うジョッキ達。
「あっ!」
萌子も慌ててジョッキを片手に持ち輪の中に加わろとしたが、出遅れた彼女のジョッキは虚しく空を切ってしまう。
その姿は、一瞬にして場に静寂を呼んだ。
軽快に流れる音楽と、隣席から聞こえる女達のハシャギ声。
萌子はジョッキを持ったまま固まった。
「もう 上林さんったらワンテンポ遅いんだからぁ~。お茶目さんね!」
隣のユキが冗談混じりに萌子の肩を叩く。
彼女の言葉は、硬直した場の空気を和やかにさせた。
「さぁ、飲もう!!」
ユキの正面に座る男が生ビールを一気に飲み干す。
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