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しかし左右は木々に囲まれ、辺りは真っ暗で、男の持つ足元しか照らせない程の灯りでは何も確認する事は出来なかった。
数度、明るい刻限に歩いた感覚だけでここまで来たので足元に道があるかだけを頼りにしていたから周囲に視界がない事すら気付かなかった。
引き返す事を選ばなかったのは、まだ仲間たちが残っていたならば嘲笑を受けてしまうというプライドと振り向く勇気が出なかったからだ。
それに今も木の陰に、鬼なのか殺人者なのか獣なのかが潜んで居るかもしれない。
ここで引き返せば、あからさまに異変を発見したのを見せる様なものだ。
男は少しだけ、ほんの少しだけ足早に歩いた。
自分の足音以外の足音に注意をはらった。
他の足音は聞こえなかったが耳の横から誰かしらの手が伸びてくる様な感じに何度もおそわれた。
そのたびに足早になり、少しすれば速さを戻したりを繰り返した。
いつの間に雨が止んだのだろうか。
男はふとそれに気付いた。
その瞬間、傘を開けたまま道に置き、今までよりも足早に歩いた。
もしも尾行して機会を伺っている者がいるのならば傘を踏みつける音が聞こえるかもしれない。
少し行って確認の為に歩く速さを落とした。
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