一章

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「気の性ではありませんの?」  カリンが作業を中断させた。ミストも気になってエプロンで手を拭く。裏庭になにかが迷い込んだ可能性があった。 「鼠さんかな。とことこ音がするの気持ち悪いの」  ネリーが、曖昧な表現で二人を手招いた。  二人は、厨房の勝手口から裏庭を覗いた。  裏庭には水を汲み上げるポンプと先ほどミストが干した洗濯物の他に、物置として使う小屋がある。  鼠が出たとすれば小屋の中なのだが、ネリーが音を聞いたのは小屋の裏側らしかった。  ネリーは普通の人間ではない。ユーリが作った薬で人間になったうさぎなのだ。そのためか、聴覚が異様に発達している。人間が拾えない音もネリーには聞こえてしまうのだ。  ミストはモップを手に裏庭に出た。足音を立てないように小屋の裏手に進む。  ミストの後ろからはカリンとネリーが静かに付いてきた。  小屋の前で、耳を澄ませれば僅かに音が響いた。何かを引っ掻いているような感じがする。しかし、小屋の裏手に物を置いた記憶がミストには無かった。  もしや、囚人でも迷い込んで食料を狙っているのかも知れない。ミストに一瞬不安が過ぎる。  監獄島の監獄からは、仮釈放される囚人が居る。
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