一章

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 鐘は、波止場にあるのだが、風向き加減で繁華街にまで届く。 「大変、もうこんな時間!」  喋り好きの人々が口々に言って去っていく。  ミストも思い出したようにチリトリのゴミを備え付けのごみ箱に捨てた。ゴミ収集は、九時頃に始まる。生ごみは農園の肥料になり、紙や布は資源として再利用される。十日に一回、役所の係員が回収に訪れる。  そのあとは何時も通りに裏庭で洗濯をした。  今日は良い天気で、風も心地好い。干した洗濯物が風にはためく。  ミックが、朝食の時に使った皿を洗い、棚にしまう。店の中を一通り整える頃には十時に差し掛かっていた。花屋から届いたクロックという白花びらを持つ花を活けると、店が明るくなった気がした。  十二時には、弁当の注文を取りに各隊の役員がやってくる。  人口五千人といわれている監獄島で、ミストが用意する料理は凡そ二百食だ。注文の他にも昼飯などで訪れる客も合わせると三百は軽く超える。どこかの屋敷でパーティを開いた時など千百食を作るときもある。当然、ミストひとりでは賄いきれない。そこで、ユーリ邸のメイドであるカリンとネリーという娘を借りてくる。  邸の主、ユーリ・シトラスは風変わりで有名で、そういう頼み事を引き受けてくれるのだ。  今日もネリーとカリンが裏庭にある裏戸から姿を現す。 「今日は八百食作るから頑張ろうね!」  ネリーもカリンも手際よくミストを手伝いはじめた。  今日は、注文が四百五十食。来賓用が三百五十食分を作る。内容は様々だが、ティパーティ用のクッキーを焼かなければならなかった。
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