一章

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 ネリーが、麺棒で生地を平にするのに悪戦苦闘していた。  粉が台所の床にはらはら落ちる。 「ティパーテイなんて珍しいですわね。どこで開催されますの?」  カリンは、弁当に入れる卵焼きを製作している。 「ハリス長官の部下にルナさんという方が居るでしょう。彼女の誕生会らしいわよ」  サンドイッチにトマトを挟んでミストは答えた。  机に並べた容器には、既に生野菜が載せてある。  五百食の内四百食は、サンドイッチが敷き詰められる。残りはホットケーキとお握りだ。ミストの喫茶店で用意できるのは、そういった軽食だけになる。後は、午後に紅茶を飲みに訪れるマダム達と喫茶店を会議室にしてしまう警備隊員の接客が中心となる。  午後のティパーティまでに、クッキーを焼く。クッキーの余り店頭に並べて売る。そうやって、一日の廃棄を減らし、売り上げでミストとミックは生活している。  今日は予定より多めの支度となったが、助っ人二人のおかげで仕事は順調に進んでいた。  十二時を目前にしたときだった。  ネリーが、裏庭にゴミを捨てに行った時のことだ。なにか変な物音を聞いたのだと言って、急ぐように厨房に戻ってきた。
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