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賑やかな声、商売人と買い手の喧騒が広がるここ沙陽城(さようじょう)では平時とは思えぬ明るい笑顔で満ち溢れていた。
斉海はゆっくりと辺りを見回し、商人の顔と商品を確認していく、特に塩を使ったものや、杜国にない特産品を売買している商人を…。
見慣れた真っ白な髭の生やした老人を見かけ目を見張る。
柔和な笑みを浮かべ座り商売をしている彼は自分が以前の調査でお世話になった一人だ……だが、彼…李雲然は王都に居を構えていたはずであり、豪商がいくら商いが盛んとはいえ最前線でみすぼらしく座り込むなど考えられない。
宦官の見張りかと過ぎるがあり得ないと思考の片隅に追いやり、行動に移す。
「…品を拝見したいのですが、よろしいですかな?ご老人。」
「今あるのは豚耳しかありませなんだ…旅人の旦那がお買いになるようなものではありませんぞ?」
「耳か
いや……今とても欲していたところだ……幾つか頂けぬか?」
豚耳など食材として滅多に扱われないものを売る行為と見知りの顔が相成って思考の回転を上げる。渦のごとく編み出された答えの一つに間諜かと思い至る。すぐさま応えた。
耳
つまり情報が多く欲しいと
「お客は運がいい、新鮮な耳が奥にあるから中の爺にたのみなさんな。」
そういう白髪爺は後ろにある戸を指し示しまた沈黙を是とした。
誰の子飼いか?今の時代間諜など当たり前に跋扈(ばっこ)しており、その存在に疑問を浮かべないまでも親の意図が図りかねた。
-蛇とでるか…
沈鬱な未来が一手先にみえ、溜め息が漏れる。気持ちを入れ替えながら戸を開き暗い部屋へと入り込んだ。
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