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小屋は暗く、蝋燭の灯が揺らめいていた。甘く微かに蠱惑的な香は伽羅であることが分かるが……同時に身を引き締める切欠となる。伽羅香は古来より誘惑に用いられてきた一級品だ…。
目が慣れてきたためか、薄く人の輪郭が縁取っていく。それは次第に女性であることが如実に一部を見て察せられた、艶やかな黒髪は腰まで伸び、微笑称える口元は水気を含み妖艶さを醸し出すには十分である、ゆっくりと口が開き甘い音が耳を駆け抜ける。
「私の名は四代目李雲然(りうんぜん)ですわ、斉海さま。」
「あぁ斉海(さいかい)だ…表にいたご老人が李雲然殿かと愚考していたが違うのか?」
「あれも李雲然ですわ、まぁ詳しくはこれから話すことにも繋がりますのでどうぞ、お座りくださいませ。」
妖か何かに騙されているのではないかと過ぎる(よぎる)が何代も続く豪商であるからこそ何かあるのだと悟り、席についた。
「さて、緊張なさっているようなので先に……私たち雲然商会は貴方のお味方ですわ、宰相さまよりお手紙をお預かりしていますので先ずそちらをご覧になってくださいませ。」
手渡された巻物には宰相である証の判が押されており、筆跡からも宰相のものであることを理解した。
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