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場内は、時間が経つに連れ人影もまばらになり、あと30分程で閉場時刻を迎えようとしている。
せっかくなので、森本を促して展望台の夜景を堪能する。
今日は、これだけの暑さにも関わらず、比較的空気が澄んでいて、夜景はまるでロウソクの炎が揺らめくようにキラキラと輝く。
ゆっくりと歩きながら順に回っていると、柱の影でカップルがイチャついてるのが目に入った。
人目も気にせず唇を重ねる二人に、森本の方が赤くなって俯いている。
「ここではね、ああいうの日常茶飯事だから。」
俺は森本の手を引き、カップルの脇をすり抜けた。
「はぁぁ、なんかこっちがドキドキするね……。」
まるで中学生のような反応の森本に苦笑するが、こういうデートスポットに彼氏と来たことがない彼女には新鮮なのかも知れない。
「記念に、してみる?」
「……何を?」
「イチャイチャ。」
森本をからかうと、彼女の目つきが一気に鋭くなり、警戒するように一歩距離を置く。
「……冗談だよ。あのね、俺は自分の職場であんなことする程、厚顔無知じゃないから。」
事実、フロアの担当スタッフが、今もニヤニヤしながら俺達の様子を伺っている。
視線が痛いので、森本を帰りのエレベーターへと誘導した。
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